★2009年1月30日の記事を再掲

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)舞台が、中南米のデフォルトから端を発した経済・金融不安を抱えた世界なので、まさに今の現実と照らし合わせながら読んだ。

本書がバブル絶頂期に書かれていたというのに、今とリンクしているのは驚きの一言。100年に一度の大不況というこの時代に、初めて本書を紐解くというのも何かの縁なのだろうとも思う。

こういった大不況の中、「強い信念と政治が必要なのは明らかだ」という世論があり、そんな折に登場してきたのが、主人公の鈴原冬二と相田剣介(ゼロ)だったわけだ。

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何か聞いたことある名前だなぁと思ったら、エヴァンゲリオンに出てた二人じゃないですか。そういえば、何かの小説から名前を取ってきたという話を聞いたことがあったんだけど、本書だったんだね。


本書を読んでて、この主人公・鈴原冬二からある3人をどうしても連想させられた

それは、ドストエフスキー「悪霊」のスタヴローギン、
新井英樹「ザ・ワールド・イズ・マイン」のモンちゃん、アメリカのオバマ大統領。


スタヴローギン (カリスマ性、ニヒリスト、冷徹)
モンちゃん (カリスマ性、サバイバリスト)
オバマ大統領 (カリスマ性、演説が上手い、ファシストと言われてたり…)

悪霊 (上巻) (新潮文庫) 真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス) CD2枚付[完全保存版]オバマ大統領演説


この3人を足して3で割ったら、鈴原冬二になる、というイメージで僕は読み進めていった。


この主人公・鈴原冬二が率いる政治結社「狩猟社」が、世界の景気が落ち着くためにはどうすればいいか3つ提示している


1.核戦争が起こって地球そのものが亡くなる。
2.全世界が共産主義国家になる。
3.経済恐慌がどん詰まりになった段階で、勢力分野の再編成が行われる。その時主導権を握るのはアメリカでもソビエトでもECでも国連でもない、世界企業とでもいうべきものだ。金融とか石油とか穀物とかそういった単一のことではなく、資本主義経済のメカニズムそのものが生きもののように世界を統合するはずだ。飢餓や内乱や局地的な戦争などで多くの人々が淘汰される。



僕は今回の(小説のことじゃなく現実の)世界恐慌で3番に近い事が起こると思っていた。今までのようなキリスト教社会ではなく、オイルマネーのあるイスラム教社会が世界を牛耳っていき、世界の勢力図がひっくり返るかもしれない、なんて半分ビクビクしてたんだけどね。

でも、実際はオイルの需要も減ってしまってそういうことにはならなかったわけだけど。それにしても、この世界企業であるとか、人々が淘汰されるとか、どうしても300人委員会なんかも連想させるね。


この鈴原冬二という人間(または狩猟社)は、非常に暴力的で過激ではあるんだけど、日本全国が世界恐慌で悲鳴を上げている時、ほんとに日本のためのことを考えているのは彼らだけなんじゃないかとも思わせてくれるものがある。

現実もそうなんだけど、小説内の日本政府もほんとだらしないというか、怒りすら覚えてしまうんだよね。

冬二なんかは「日本はアメリカの属国でも植民地でもない」とはっきりと発言するし、「日本も世界ももうすぐ平和になります」と、たとえ嘘でも安心させてくれるような発言をしてくれる。

やっぱりここまでのことをやれる人間というのは、小説内だけの話なんだろうね。現実にはとてもじゃないけどこのような人間は、今の日本に現れることはないんだろうなぁ…。


冬二と記者とのやりとりで、こんなものもある。

「暴力を肯定するのですか?」
「肯定する、なぜなら、暴力を一切排除した上で解決できることなど、現在なにも存在しないからです、対立した価値観、対立した利害を調停できる言葉などもう世界中どこを捜しても残っていないではありませんか」


これは結構ショッキングではあるけど、実際そうなのかもしれない。悲しい事ではあるけど、戦争や紛争が無くならないのはそういうことなのだろう。

本書がこんなに内容の濃いものだったとは…もっと早く読むべきだった。村上龍が本書を書くために読んだ参考文献は数百冊にも上るそうです。狩猟社が政権を取ってからの話も読んでみたいなぁ、続編希望。







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