★2009年2月2日の記事を再掲
主人公・汐見医師の手記という形に本書はなっているんだけど、他の三島由紀夫作品に比べてかなり読みやすい印象。
一人称小説ということもあって、この精神分析医のプライドの高さなど、ものすごく人間臭さが存分に出ていて面白かった。ミステリー小説のようにも読めるね。
まさに本書は医者と患者との戦いという感じ。汐見医師は相当な自信家らしく、手に負えない患者である麗子に対して、やりがいを感じるというよりは屈辱を感じていたりする。
また、患者が言った嘘を嘘だと看破したり、言いくるめるなどした時、「自分の患者がこうして打ちのめされている姿を見るのが、好きだという感情をどうしても否めない」と感じるなど、医師として相当歪んでいる気がする。

本書の患者・麗子もそのようなタイプみたいで、色んな計算により汐見を翻弄する。汐見も初めはそういうのを冷静に対処しているんだけど、段々と自分の方が麗子に執着していってしまって、ある意味立場が逆転しているというのが見所なのかも。
患者・麗子は診察を受ける病院の分析室を、自分の唯一の安息の場所だと思い込んでいる、という記述がある。これは医者と心と心を附き合わせる場所・行為ということもあり、考えようによってはこの場所・空間を“子宮”の代わりとするならば、医者と患者の関係が母親と胎児の関係を表してるのかも、とちょっと思った。考えすぎかもしれないけど。
(胎児と言ったら「胎児の夢」、ドグラマグラなわけだけど、あちらも精神病とかの話だったはず。患者と医者は紙一重といった感じの内容だったかな? ずっと精神をわずらった患者さんを相手にしていると、医者自身もそれに飲み込まれるということも多分にあるのでしょう。いつぞやテレビに出ていたメンタルの先生なんかも自分も鬱病と言っていたことを想起させられてしまった)
何というか、こういった精神病などを題材にしたものって、深読みすればいくらでもできる感じなので、色々と考えさせてくれたように思う。語り口も易しいので、初めて読む三島作品としては丁度良いかもね(でも、三島由紀夫の真骨頂はこんなもんじゃないけれど)
▼“青臭い思想”があるからこそ生かされる「金閣寺」(三島由紀夫)