★2010年3月5日の記事を再掲

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)個人的には戦争物って苦手な方なんだけど、本書はかなり引き込まれながら読むことができた。戦闘シーンばかりでなく、主人公の心の葛藤がメインになっているので、非常に興味深かったし考えさせられるところも多い。とてもデビュー作とは思えない文章が紡ぎ出されていて、とにかく濃かった。

本書の舞台は、全ての事柄がID認証によって管理された世界。何をするにしてもIDで監視されている。戦争はほぼビジネス化しており、銃弾の1発から管理され、感覚や知覚に至るまで管理処理、当然のことながらカウンセラーによりメンタルも管理されていた。

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要するに戦闘員は、判断する自由という厄介な代物から全て開放された状態で戦争を行う、ある意味機械のような存在。しかし、人間は人間だ。そこに罪悪感を背負い込むようになっていく。自ら殺意を抱いて罪を犯したなら話は早いが、この殺意はカウンセラーによってコーディネイトされたものなのでは? と思い悩む主人公。罪悪感なんて背負い込む資格すらないと精神的に追い込まれていく…。

主人公はある意味、カウンセラーの「言葉」によって“虐殺器官”にされてしまったんじゃないだろうか? そう思えてしょうがない。本書の中で“虐殺器官”という文言は別の意味で使われていたんだけど、僕にとっては主人公に当てはめてしまった方がすごくしっくりくる。


本書は近未来のお話として語られてはいるけど、現在のアメリカ軍だって同じようなことをしているんじゃないかと想像に難くない。当然カウンセラーによってメンタルケアが施されていることだろう。そこでどんなことが語られているか具体的には知らないけれど、イデオロギーのようなものもそこで注入されているのは確かだと思う。

イデオロギーを持たないと、戦闘において殺し続けることは不可能だ。それはやはり「言葉」によって主に行われる。まさに洗脳と同じ。皆が罪悪感を背負えば戦争なんて長くは続かないかもしれないのに、それを取り除き、さらに煽る存在がいるという事実。

ほんと「言葉」は凶器だと思えてしょうがない。言葉そのものの意味が全てではなく、音やリズムだけでも人間は行動を起こしてしまう。自由を求めて戦争をしたところで、“自分”という存在の生きる自由は無いのかもしれない。


それにしても、謎の男(黒幕)の犯行動機というのもなんか凄かった。ネタバレになるので書かないけど、これが9.11と関連しているところなんだね。こういう発想をする人って実際には意外と多そうな気もするなぁ、実行できるかできないかは別としてだけど。

うん、素直に面白かった。情報量がかなり多くて読み疲れちゃったけど、読んで良かったと思えるものがココにはあった気がします。長編第2作の「ハーモニー」もそのうち読まねば。







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