奔馬―豊饒の海
★2013年4月12日の記事を再掲

自分の信念をつらぬき、その結果自刃したいと考える少年の物語。その信念とは「日本を毒している禍々しい精神を打ち滅ぼす」ということ。

それは純粋なる正義感からくるものなのか? いや、言ってしまえば純粋なる悪意からくるものであったらしい。しかし、禍々しい精神を宿している人間自体を憎んでいるわけではなく、少年自らの思想信条からくる無垢な犯罪であったと言える。

こういった愛国心からくる正義の鉄槌のようなものって、昔は多かったのだろうなと想像に難くない。本書の主人公の場合、学校教育や家庭環境が特に大きく影響を及ぼしているのだろうけれど。

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現実が間違っている=政治が間違っている、という風に転換しがちだったのでしょう、時代的に。向ける矛先がないというか何というか。現在で言えば政治ではなく、自分より弱い人間、幸せそうにしている人間を傷つけようと“通り魔”になる感じかもしれない。やはりそこには思想信条の有るか無しかの違いもあるのだろうね。


本書を読んで真っ先に思い出したのが、「元厚生事務次官宅連続襲撃事件」。こういったテロ事件が21世紀の日本で起きてしまうとはと震撼したものだけど、動機は「保健所に飼い犬を殺された仇討ち」ということだったらしく、一転して事件の本質が見えなくなったことをよく覚えています。




それから、前作において「もう百年たてば、われわれは否応なしに1つの時代思潮の中へ組み込まれ、当時自らもっとも軽んじたものと一緒くたにされてしまう」といった思想めいたことも語られていたけれど、これに反発して乗り越える1つの答え、手段こそが本書におけるテロリズムということなのだろうなぁ。

ひとつの“時代”というものから頭一つを飛び出させるため。自分はここにいるということを周知させるため。ある種の承認欲求なのであろうけれど、本書の主人公の場合自分を知ってもらいたかったのは天皇陛下唯お一人であったのは間違いない。


それにしても、槙子さんがあらかじめ日記を偽装していたというのが凄過ぎる、女性強し。




豊饒の海 第二巻 奔馬 (ほんば) (新潮文庫)
三島 由紀夫
新潮社
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