★2013年11月20日の記事を再掲
なんだか生きる根源というものを思い知らされた、そんな作品だったように思う。
国の指導者がユートピアを目指すものの、それがどんどんディストピアになっていくという、その変遷が何より怖ろしい。文化・文明の衰退、その原因が政治にあって、どんどん物質的な豊かさが無くなっていき、原始的に立ち返っていく絶望感。まさに地獄としか言いようがない。
そうなってしまった発端というのが、外国の文化が自国に混じって社会が腐敗することへの抵抗だったわけだけど、それがあまりに苛烈過ぎたために自分で自分の首を絞めることになってしまうとは。
まあ、自国の文化を守るという行為は素晴らしいことではあるのは当然なことだ。ただ、元々あった宗教までをも否定してしまったのが、地獄へのレールに乗ってしまう原因にもなったのかもしれない。
そりゃあ、日本の宗教だって富の上にあるのは否定出来ない。だからといって、信仰を一切排除して完全なる平等を実現しようと思っても、せっかく人心がまとまっていたものを指導者自らが引き裂く結果にしかならなかったわけで……。
こういった完全なる平等社会にするための再教育にしたって、ある意味では宗教なんだよね。皆に同じ思想を植え付けるわけだから、やっていることは同じようなものだ。
しかし、任意か強制かで精神的な部分がずいぶんと違ってくる。なおかつ、極限状態に置かれてしまった人間に教育なんかをほどこしたら、集団ヒステリーだって起こるのも否めない。ほんと目も当てられないような悲惨な状態が、そこに浮かび上がってくるほかなかったようです。
でも、元々あった人々の格差というものを考えたら、こういった状況が是か非かすぐに判断出来ないところが非常に悩ましくもある。とにかく本書を読んでいて、自分の持っている価値観が揺らいで仕方がなかったなぁ。色々と考えさせられて仕方がない、誰かと議論したくて仕方がない、そんな気分にさせられてしまう。
民族問題・差別問題にしたって、一般の日本人が常識的に持っているものとは異質で、かなり根が深いというのも何とも言えない感じですな。お国の事情が違うだけでこうも変わってしまのかと、しみじみ思ってしまう。
ま、そういったところに、日本の一般サラリーマンが巻き込まれちゃったわけだから、ほんと読んでいて物語に圧倒されて仕方がなかったです。最後は多少救いがあったようで、良かった良かった。